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講談社やら集英社やらのライトノベル作家みみとミミの物書きブログ
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 現在は六月、もうじき夏季地区予選が始まる。
 そして、俺は二年。
 そこから丸一年ということは、三年の六月まで公式戦に出場できないということ。
 さらに、三年生には春の甲子園に出場する資格がない。
「要するに、俺は高校野球選手生命をかけて転校したんだよ」
「それで、みゆきちゃんの手違いを勘違いして女子野球部に入部した、と。度し難い莫迦ね」
「まだしてねえよ! するわけねえだろ!」
 ひなたの呆れ顔にもこの程度しか言い返せない。
 実際、莫迦すぎた。
 一度でもチェックをしていれば、こんなことにはならなかったはずなのに何をしているんだ、俺は。
「……ともかく、そういうわけだから、俺は女子野球部に入らん」
 そこまでの流れで把握できてはいたのだろう、女子部員たちは落胆しながらもあきらめの表情を見せていた。
 しかし、女子野球部に男子の俺を迎えて、どうするつもりだったのか――
「ま、しかたないわね」
 ひょい、とひよりも肩をすくめた。
「あんた、これからどうするの?」
「しばらくすれば、男子の方も来るんだろ? そっちに入部届けを出しに行くつもりだ」
「ふぅん」
 と、一息。
「じゃあさ、男子が来るまでの間、あたしたちの練習見て行ってくれない?」
 ……まあ、わざわざ歓迎準備してくれたんだ。それくらいの義理はあるだろう。
「わかった。見せてくれ」
「おっけー、グラウンドに来なさい!」
 ひなたは胸を張った。
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 部屋の中からの声にも止まらず、みゆきはドアを開け放った。

 白。

 肌色が覗く、桃色の世界に、白色の下着が映った。
 下着。
 ブリーフというオチではない。
 女性モノの下着だ。
 筋骨粒々で特異な趣味をしたゴツイ野球部員が着ているわけでもない。
「き……きっ……」
 マネージャーだろうか、生徒らしき女子。
 胸部は豊満でありながら腹部に贅肉はなく、実に健康的に絞れている。
 特筆すべきは下半身だ。
 腿は太く筋肉量が見受けられ、そのくせ足首は柔軟さを残したまま無駄のない細さを獲得している。
 なるほど、マネージャーもしっかりと体力づくりをしているんですねぐはぁっ
「きゃああああああああああああああああ」
「ちょ、ま、待て! グローブはともかく、ヘルメットを投げんな!」
「ダメですよぉ、島谷さん。いくら可愛いからってひなたちゃんの着替えを覗いちゃあ?」
「えええ、俺のせい!?」
 君が開けたんでしょ、ドア!
「あ、頭を一撃すれば、記憶が飛ぶはず……」
「いやいやいやいやいや、バット持つな! 素振りするな! 近づいてくんなー!」
 ひいぃ、乱雑にタオルを巻きつけただけの半裸娘怖いぃいいい。
「お、お姉ちゃん。まず、ちゃんと服を着ようよ……」
 おお、救世……主が……
「暴力女が増えたっ!?」
 振り向いた先にいたのは、ひなたと呼ばれた暴力女と同じ顔。
 ただし、こちらはきちんとユニフォームを着ていた。
「誰が暴力女かー!」
「お前だお前! バット振り回しながら言うセリフじゃねえぞ!」
 しかも、体重の乗ったいいスイングしてるし! 当たったら死ぬぞ、冗談抜きで!
「お、お姉ちゃんってばぁ……」
 と、そこでみゆきがぱんぱん、と手をたたいた。
「はいはーい、そこまでそこまでー、同じ部の仲間同士でけんかしちゃいけません。みゆき先生に注目ですよー♪」
「せ、先生ぃ!?」
「そうですよー、言いませんでしたっけ?」
 いや、可愛らしく首を傾げられても。
「天武高校女子硬式野球部の顧問、梅野みゆき。二十五歳独身なのです♪」

 

「……は?」

 

 すごく時間が止まった。
「若く見えるっていわれますけど、みゆき先生は二十五歳。これでも教員免許持ってるのでーす♪」
 それも詐欺っぽい話だが、
「違う。そっちじゃなくて、その前」
「顧問?」
 ちょん、と唇に人差し指を当てるみゆき。
「そのさらに前」
「天武高校女子硬式野球部?」
「そう、それ! なんですか、その――『女子』硬式野球部ってのは!?」
 すごく嫌な予感がした。
 普通に考えれば、『同じ部』というのは男子硬式野球部と女子硬式野球部も同じ野球部だから、という意味合いのはずだ。
 が、何やら背中をなめられるような感覚がぞわぞわ、とした。
「それはもちろん、島谷さんが入る部の顧問ですから、挨拶は必要だと思いました♪」
 落ち着いて見渡せば、部室にいたのは女子、女子、女子。
 ユニフォームを着た女子の集団。
「皆さん、行きますよー。さん、はいっ♪」
 みゆきが音頭をとり、
『ようこそ、天武高校女子硬式野球部へ』
 と、唱和。
 ばさっと音を立てて、横断幕が垂れ下がる。
 そこには『祝、入部! 天武高校女子硬式野球部』の文字。
「な、な……なんじゃこりゃああああああああああああ!?」
 叫ばずにはいられなかった。
「何よ? この程度の歓迎じゃ不満なわけ?」
 合間に着込んだのか、ユニフォーム姿の暴力女がいた。
「ああいや、暴力女。そういうわけじゃなくて……」
「暴力女いうな! あたしは、相模ひなたっていう立派な名前があるんだから、そう呼びなさい!」
「あー、じゃあ相模」
「それだとひかげと紛らわしいから、ひなたって呼んでちょうだい。敬称は様でも姫でもお好きなように」
「誰が付けるか、んなもん!」
 ひかげ、というのはおそらく先ほどのひなたと同じ顔をした女子のことだろう。姉妹、ってことか。
「で、これはどういうことなんだ?」
「何がよ?」
 何がも何も。
「なんで俺は、『女子』野球部に歓迎されてるんだ、って話だ!」
「はあ? そりゃ、あんたが入るつもりで転校してきたからでしょ?」
「何をどうとち狂ったら、俺が『女子』野球部に入るつもりになるんだよ!?」
 嫌な予感が次々と確証に変わっていく。
「ま、まあいいや……。それよりも、俺は野球部に呼ばれてるんだから、こんなところにいる暇はないんだ」
「あれ? 島谷さんは、男子野球部に『も』呼ばれてるんですかー?」
 みゆきがなんか言った。
 とっても聞きたくないんだけれども、確認。
「……『も』?」
「はい、今日この時間を指定したのは、女子野球部ですよ? 島谷さんを招聘したのももちろんここです♪」


「……すみません、この手紙の差出人はどなたかご存知ですか?」
 招聘された手紙を取り出す。
「当然、顧問のみゆき先生が書きましたよー。天武高校の硬式野球部です♪」
 つまり、
 俺は
 甲子園どころか
 公式戦にすら出られない
 女子野球部に呼ばれて
 転校しちゃったんですか?
「うわあああああああああああああああああああああああああ」

 お先、


 真っ暗。
>>>
 大会参加者資格規定、第五条三項

 転入学生は、転入学した日より満1ヵ年を経過したもの。ただし満1ヵ年を経なくても、学区制の変更、学校の統廃合または一家転任などにより、止むを得ず転入学したと認められるもので、本連盟の承認を得たものはこの限りではない。
 なお転入学生であっても、前在籍校で野球部員として当該都道府県高等学校野球連盟に部員登録されていなかったものは、転入学した日から参加資格が認められる。
>>>

>>>

 第一章『すべての終わりとなる始まり』

 拝啓、島谷一球様。
 天武高校の硬式野球部一同はあなたを招聘したく思い、お手紙差し上げました。
 それほど大きな優遇を図ることはできませんが、チームのために力をお貸しいただければ幸いです。

 一言で表すなら、変な手紙だった。
 確かに、高校からの招聘は何通もあった。
 だが、それらは多少の差こそあれ形式に則った体裁であり、間違ってもこんな本文が三行ほどしかないものではなかった。
「……ま、それが今の俺の評価ってことか」
 天武高校。
 東東京に敷居を構える共学制の私立。
 ほんの七年前に生まれた高校にもかかわらず、一昨年夏季予選でのベスト十六に続き、去年夏季予選でもベスト十六の健闘。
 秋に弱いといわれるが、学校側からのバックアップは強力であり甲子園は射程県内である。
 他、つらつらと美辞が並ぶ天武高校発行のパンフレットをぼんやりと眺める。
「はぁ……」
 正直、この高校では甲子園は難しいだろう。
 俺なりの考え方だが、高校にはいくつかランクがある。
 十年に五回は名前を見せる甲子園常連高校。十年に三回の甲子園射程圏高校。十年に一回の予選上位高校。二十年に一回の甲子園経験高校。予選落ち高校。
 この格差は絶対であり、やすやすとは覆らない。本気で甲子園を目指すのであれば、せめて射程圏に納めている高校でなくてはならない――が、天武高校はよく見積もっても予選上位どまりだ。
 高校野球部のスカウトが糾弾されて数年。
 しかし、格差はいまだに残っていた。
 極端な優遇は否定されたものの、声をかけること自体は大きく否定されていない。
 ならば、上位選手は自然と有力高校に集まり、『いつもどおりに』甲子園へと導くのも道理といえるだろう。
 一年を棒に振ってまで天武高校に来たことは、果たしていい判断だったのか。
「今更考えても仕方ないか……」
 もうすでに、一歩を踏み出してしまったのだ。
 まだ『着られている』といった風にツッパる天武高校指定のワイシャツをなでつける。
 ――天武高等学校
 正門に掲げられた校名を軽くたたいて、俺は進む。
「よぉし! やるぞぉ!」
 校舎の大時計は午前六時を指していた。
 あくびをかみ殺し、向かう先は部室。
 こんな早くに朝練もないだろうが、この時間に、といわれたのだ。部員たちに紹介する場所を設けてくれたのかもしれない。
「へぇ……」
 下見すら――むしろどれほど設備が整っていないか怖くて――していなかったが、グラウンドに併設された部室は創造していたよりよほど立派だった。
 運動部室棟かと思いきや、『野球部室棟』とはなかなかな出来といえよう。
 この分だと、独立した筋トレ室も期待できそうだな――

 がしょん

「ん?」
 開かない。

 がぎがぎ

 開かない。
 看板を確かめる。
 硬式野球部。間違いない。
 はて、合言葉でもあったかな?
「あ、もう来てらしたんですか♪」
 子供だった。
 あ、いや、サイズの合う天武高校の名前が入ったユニフォームを着ているところからして、ただの――相当に――小柄な女子マネだろう。
 しかし、それにしても小さい……。
 百四十? へたするとそれ未満か?
「初めまして、わたし、梅野みゆきです。気軽~にみゆきちゃんって呼んでくださいね♪」
「え、えっと、俺は――」
「あ、自己紹介はみんな待ってると思いますから、どうぞこちらへ♪」
「わかった」
 身長と同じく小さな手に、部室の入り口の横を通り奥へと引かれる。
 すると、表からは見えない空間に、こじんまりとした離れ部室――というのだろうか――があった。
 創立七年のはずなのに、どこか古ぼけて見える石造りの部室。
 ごちゃごちゃと部屋の前に積み上げられたほつれたボールや掃除用具。
 なんで、こんな物置部屋で……?
「みんなー、島谷さんが来たのでご挨拶してくださーい♪」
「え、ちょ!? 待っ――」

 序章

「お前たちに、まず言っておくべきことがある」
 都内にもかかわらず広いグラウンドは、その隅まで丁寧に整備されていた。
 見渡せばトスバッティング用のネットからバッティングマシーン、果ては巨大な照明まで様々な専用機材が目に入る。
 さらに遠くまで目をやれば、校舎に併設された選手寮さえ見えた。
 ここはまさしく、甲子園に行くために存在する学校だ。
「相手との戦力差は途方もなく開いている。仮に、今お前たちが挑んだとすれば、十回やって十回負ける。ただ一度の偶然もないと断言してやろう」
 その選手たちは沈痛な面持ちで俺の言葉を呑んだ。
「そこに俺が加わった。準備期間として一ヶ月が与えられた。ならば、どうか?」
 続く言葉を聞き逃すまいと、自然、選手たちの体が傾いだ。
 俺の前に並ぶ十人のうち九人までは、だが。
「結論から言おう。十回やって――九回負ける。これは覆らない。俺にできる限りのすべてを尽くしたとして、それでも勝てるのは一回だけだ」
 ぐらり、と揺れた。
 発奮はなく、ただただ堕ちる――
 かすかな希望も、この瞬間打ち砕かれた。もう、手はない。やっぱりダメだった。
 ――そんな目をした。
 俺の前に並ぶ十人のうち九人までは、だが。
「――で、『その一回』を試合当日に持ってくる方法はあるんでしょうね?」
 口が、歪む。
 触らなくてもわかる。今、俺は笑っている。
 ああ、お前ならそう言ってくれると信じていたよ。
 そこにあるのは、強気な目だった。
 闘争心を失っていない、挑戦者の目。
 相手に打ち勝つ意志を宿した、力ある目。
「最高の展開をしたとして、それでも五点は取られるぞ」
「なら、六点取る方法はあるんでしょうね?」
 間髪入れず、そう返された。
 直立ではなくやや足を開き、両の手は腰に当てて立つ。
 弱い風が舞い上げられた砂は白のユニフォームを色付けし、長い黒髪をするりとなでた。
 百六十センチもないだろう俺より頭ひとつは確実に低い背丈なのに、ともすれば見下ろされているようにも感じられる。
 ああ、ああ、いいね。いいよ、最高だ。
「当然だ。俺を誰だと思っている?」
 お前がそうだからこそ、俺はやる気になった。
「知らないわよ、莫迦」
 俺の不敵な笑いとは対照的な、活発で楽しそうな笑い。
 芸術品のように整えられた顔立ちに、勝気に吊り上げられた眉が印象的な少女。
 それが彼女――相模ひなた。
「お、お姉ちゃん、監督さんに莫迦莫迦言っちゃダメだよぉ」
 と、そのひなたとも対照的な気弱な声がひなたと同じ顔――から無遠慮なまでの力強さを抜いたもうひとりから発せられる。
 双子のはずなのに、同じ外見なのに、相模ひかげはさっぱりひなたに似ていない。
「ひかげ、よく聞きなさい? 莫迦に莫迦って言わないと、莫迦が莫迦だって自覚すらできない莫迦になっちゃうのよ。いいの、それでも?」
「え? え? えっ? ええと……莫迦が莫迦に莫迦だから莫迦で……」
 あっさり混乱させられ莫迦の意味を模索するひかげ。
「ふぅ、いい仕事したわ♪」
 あっさり煙に巻いてさわやかな笑顔を見せるひなた。
「何の仕事をしとるんだ、お前は……」

 だが、限りなく頼りないこのふたりこそが、試合の鍵となる――

「莫迦って何ぃ~? ふにゃあ~……」
「……我が妹ながらいいのかしら、これで?」
「お前が言うな」

 ――と思いたい。

 天武高校女子硬式野球部対男子硬式野球部の試合日まで、あと三十日。
 

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