忍者ブログ
講談社やら集英社やらのライトノベル作家みみとミミの物書きブログ
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

 


 経験者は六人だった。
 部員が十人しかいないことを考えればなかなかの割合で、フランシアのようにソフトボールからの人間も四人いた。逆をいえば、『野球のピッチャー』をしたことがある人間はふたりしかいないということ。
 なるほど、打ってみれば彼女たちの球筋も悪くはない。フランシアにこそ劣るが、いずれもアンダースローのきれいなフォームをしており――その分タイミングは合わせやすかったが――『経験者らしさ』というものが見て取れた。
 まあ、『打ってみれば』なので、

 かきぃいいん

 かあぁああん

 きぃいいいん

 がこぉおおん

 と、四人はあっさり沈んだのだが。
「さぁて、ひかげちゃん。勝負だ」
「ひゃ、ひゃいっ!」
 びくびくと言動こそ落ち着きないが、マウンド上での立ち居振る舞いはどうだ、立派なものじゃあないか。
 すでに五人が登ったマウンドは、荒れてはいないものの少々『違う』。ひかげは、ごく自然にそれをならして自分用のマウンドを作り上げていく。彼女のこれまでを考えれば、待たせてはいけない、とそのままのマウンドで一秒でも早く投げ込んで来そうなものなのに、だ。
 左手でグリップエンドを感じるように握り、ピッチャーに向かってまっすぐ伸ばす。重力に任せて降ろし、右手を添える。右バッターボックス内からホームベースの隅をそれぞれ一回ずつバットで叩く。
 ――面白そうな相手には、全力でかかる。
「い、いいでしょうか、島谷さん?」
「おーぅ、いつでも来いよ」
 左手のグローブを構え、右足を引いた。
 ゆったりと大きく振りかぶり、体をひねる。
 安定した下半身はその腰の回転をらせん状に伝え、限界まで絞られた右腕は胴体よりよほど開きが遅い。
 オーバースロー。
 それも、『本格派』と呼ばれるような強烈なもの。
「ええいっ!」
 その、マヌケな声に、ぞくり、とした。

 ――速い。

 肩肘手首が柔らかなのだろう、ギリギリまでの球持ちは実際の速度よりもさらに五キロ、十キロを感じさせた。
 戦慄した。
 まさか、これほどとは。
 ひかげは、圧倒的な速球を持つ投手だった――

 

 

 ――女性としては。

 かっきぃいいいいいいいいいん

「まあ、こうなるよな」
 フランシアの最後の球よりなお遠く、球場であったなら場外の位置までボールは飛んでいった。
「す、すごいです……」
 さて、本当にすごいのはどちらだろう。
 ひかげの球は、百三十キロ台前半。女子としても高校球児としても相当速かった。また、フォームのよさもあり、体感としては百四十キロに届いていた。
 が、『それだけ』だった。
 コースも高低も甘く、球質も軽い。その上、ノビがないときている。たとえ百四十キロが投げられたとしても、ひかげは高校野球の上位選手にはまるで通用しないレベルのピッチャーといえた。
 野球においてしばしば語られる『球質』や『ノビ』というものは、ボールに加わる回転が大きく影響している。
 回転の多い球はバットに当たったとき、比較的飛びやすくなる。こういう球を『軽い』と評する。
 だが、その一方で回転が多い球は『ノビ』を得る。回転により自由落下の距離を短くすることにより、バッターの想像よりもボールが上を進みやすくなり空振りを撮りやすくなるのだ。
 このふたつは、他のさまざまな要素から完全ではないにしても両立する。
 そこにおいて、ひかげの球は『軽くてノビがない』という残念なものであった。
「で、最後が暴力――もとい、ひなた、か。期待してるぜ?」
「あんまり期待されても困るけど……負けたくはないわね」

PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
カレンダー
09月 2018年10月 11月
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31
最新トラックバック
プロフィール
HN:
みみとミミ
性別:
非公開
職業:
ライトノベル作家
バーコード
ブログ内検索
カウンター
忍者ブログ [PR]