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講談社やら集英社やらのライトノベル作家みみとミミの物書きブログ
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 勝った、と佐藤フランシアはマウンド上でほくそ笑んだ。

 フランシアはいいピッチャーである。
 左アンダーという希少性に加え、ブレーキの利いたカーブと鋭く曲がるスクリューを持ち、ストライクゾーンをおおよそ四分割に投げ分けられるコントロールも携えている。女子でありアンダーであるがゆえ最高球速こそ百十キロ台後半であったが、軟投派としてはほぼ完成しているといえた。
 そのフランシアを、島谷は手玉に取ってもてあそんでみせた。
 ここまでの八球、コースも球種も選ばず狙った場所に打ち上げる――これがいかに奇跡めいたものか。特に、二球目。勝負の場でキャッチャーフライを狙い打ちできる高校生など東京中を探しても何人いるだろう。
 生半可な実力差では作り得ない状況。
 ――しかし、そうでありながら、フランシアは勝ちを確信していた。
 ロージンを放り捨て、ボールを握る。
「その慢心――せいぜい利用して差し上げますわっ!」
 狙い打つ場所を定め、打撃姿勢まで定める。これがどれほどのカセとなるのか、コイツはわかっていない。
 百十キロ台なら体勢を立て直してからでも打てるとでも思っているに違いない。
 それが、『慢心』。
 と、フランシアは嗤う。

 なぜなら――最高球速百十キロ台のフランシアが投げることのできる最高球速は、『百十キロ台ではない』から。

 フランシアが取った投法は、オーバースロー。
 そして、投げられた球は百二十キロ台中盤の渾身のストレートであった。
>>
 大飛球は、追うライトの頭上をはるかに越えていった。
 グラウンド数枚を合わせたような形を取っているためフェンスはなかったが、飛距離は十分と見えた。仮にホームランとせずとも、軽く走れば十分ランニングホームランになるくらいには飛んでいた。
「さーて、体もほぐれたし。そろそろ本番行こうかー」
 さわやかさ百パーセントの意地悪な笑顔で俺は、素人ピッチャーに『勝負』をうながす。
「……どうやって打ったんですの?」
「んー?」
「アレは――あの球は、打てない球のはず! どうして、なぜ、打てたんです!?」
 噛み付く勢いだけは立派なんだがな。
「あのな、素人ピッチャー」
「佐藤フランシアですわ」
「んじゃ、フランシア。逆に問うが、なんでお前はあの球なら打たれないと思った?」
「それは……まず、徹底して球の速さを偽ったこと。八球目には、すでに二度打たれたコースへ同じ変化球を用いてまでして、九球目のオーバースローでのストレートの速さから外しましたわ」
「他には?」
「クローズドスタンスに一番きつい、インハイを選びましたわ。極端に打撃フォームを変えるかスタンスそのものをいったん崩さない限りは、どのようなスイングをしたとしてもバットの芯には当たらないコースだからですの」
「……他には?」
「ありませんわ。これ以上考えることなんでないでしょう?」
 だから、素人レベルなんだというに……。
「なら、聞くが、お前が打席に立ってクローズドスタンスを取っているとして、相手ピッチャーからインハイにストレートが放り込まれると分かっていたら、どうだ?」
「打てるに決まってますわ。少々速いストレートでも、まったく関係ありませ……あああああっ!?」
「ま、そういうことだ」
 ここまでの配球を見れば分かる。コイツらはピッチャーとバッターの駆け引きってものがさっぱりわかっちゃいない。
 少しばかり投法が珍しい?
 若干コントロールが利く?
 そこそこ変化球がキレる?
 んなもんは単なるオマケだ。よほど、絶対的な『力』を持ったピッチャーやバッターでもない限り、マウンドとバッターボックスは常に駆け引きの場となる。
 ま、その辺もわかってないんだろうな。
「決着はついたとみてもいいか?」
「……」
 フランシアは額から流れ落ちた汗をぞんざいにぬぐい、うつむくように首肯した。
「お好きに命じなさい。……わたくしの名にかけて、どんなことでもしてみせますわ」
「んじゃ、ジュースでもパシって来――」

 ぽん

 と、一塁ベースよりややファールグラウンドよりでボールが跳ねた。
 あわててキャッチャーが数歩動き、捕球。
「ご、ごめんなさい、送球それましたぁ」
 声の主はひかげ。
 ライト後方からの返球だった。
「ひかげさん、送球をするならするできちんと声を上げるべきでしょう?」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
 ライト後方――本来ならフェンスのある位置――からの返球だった。
 推定遠投距離、八十メートル以上。
 この数字は、男子でも簡単には出せない。
「まったく……わかりましたわ。次からは気をつけてください。……さ、わたくしは何を買って来ればいいんですの?」
「……いや、気が変わった」
「え?」
「――投手経験のあるヤツ全員と勝負させろ」
 ちょっとだけ、おもしろくなりそうじゃないか。

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