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講談社やら集英社やらのライトノベル作家みみとミミの物書きブログ
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 一種異様な光景だった。
 ピッチャーからライトまで、背番号をつけた全員が女子。
 俺の野球人生の中でも、この光景を前にバッターボックスに立つのは初めてだ。
「勝負する前に、ひとつ頼みがある」
 足元を均し、バットを握る。素振りは軽く、誤差の調整をするつもりで。
「聞くだけ聞いて差し上げますから、どうぞ、お言いなさい」
 マウンド上の素人ピッチャーはといえば、すでに肩も温まっているのだろう、不敵な笑みと共にグラブの中でボールをこねている。
「転校するにあたって、ちょっと俺練習するヒマがなくてな。九球だけ、練習に付き合ってくれないか?」
「いいですわ、ストライクゾーンに投げることだけは約束しましょう。空振りまでは責任とれませんけれど」
「そいつぁ、どうも」
 左手でグリップエンドを感じるように握り、ピッチャーに向かってまっすぐ伸ばす。重力に任せて降ろし、右手を添える。右バッターボックス内からホームベースの隅をそれぞれ一回ずつバットで叩く。
 これは、ジンクスというものだ。
 俺が成功したときの動作をひとつひとつ加え、そのときの感触を体に思い出させる作業。それがうまくいったことを、握るバットが教えてくれた。
「ま、よろしくな」
「行きますわよ……」
 すう、と振りかぶり、素人ピッチャーの左腕が潜り込む。
 サイド気味のアンダースローながらも腕の出は遅く、右対左の見易さがあってなお球持ちのよさを感じさせる。
「喰らいなさいっ!」
 ストライクゾーン。インハイへのストレートが伸び――

 かきん、と金属バット特有の高い音が響いた。

「ふふん、どうです。わたくしの球は?」
 マウンドから一歩も出ることなくさばける、ピッチャーへのポップフライ。
 その一球をだけ見れば、勝者は間違いなくピッチャーだろう。
「なかなかいい球だ。褒めてやるよ」
 ぴく、と素人ピッチャーの顔がこわばる。
「……いいですわ、それなら完膚なきまでに叩きのめしてあげますわっ!」
 同じくサイド気味のアンダーから放たれた一球は、先ほどより少々遅くアウトローへと沈んでいく。
 スクリュー。
 左サイドや左アンダーのピッチャーが好んでウイニングショットとして用いる球種。右バッターから遠くへ遠くへ逃げるその球は、捉えにくく空振りを誘いやすい。
 だが、想定される球種のひとつ。俺は、迷いなくバットを届かせ――

 かん、とより鈍い音が響く。

「どうかしら? これでもまだ、足りませんこと?」
 キャッチャーへのポップフライ。これもまた、一歩も動くことなく処理された。
「残り七球だろ? 肩が冷えないうちにどんどん投げてくれよ」
「――っ! なら、お望みどおりどんどん行きますわよ!」

 アウトハイにストレート。ファーストフライ。
 インローにストレート。セカンドフライ。
 インハイにカーブ。サードフライ。
 アウトハイにストレート。ショートフライ。

 そこまで続いて、ようやく素人ピッチャーも顔色を変えた。
「――なら、これでっ!」
 一球目と同じく、アウトローへスクリュー。
 しかし、俺は捉えそこなうことなく――『レフトフライを打ち上げること』に成功した。
「ふぁあ……なーんか、眠いなー」
 俺はわざとらしくあくびをひとつ。
「あんまり遅いから、アウトローなのに引っ張っちゃったよ。あはははは」
「くっ!」
 アウトコースは引っ張りにくいというのが野球の常識だ。
 体から遠い球にバットが衝突する角度はどうしても外よりにならざるを得ないことが理由なのだが、『それなのにレフトフライになった』。いや、そうなるように仕向けた。
 高校野球では、背番号はピッチャーから順に番号を与えられることが多く、その並びは『ピッチャー、キャッチャー、ファースト、セカンド、サード、ショート、レフト、センター、ライト』となる。

 かきぃん

 三度放たれたアウトローへのスクリューを捉え、センターフライ。定位置から三歩動いただけで処理は終わった。
 つまり、最後は――
「次が九球目か。いやー、いいところないなー、俺。困った困った」
「――っ!」
「でもま、締めはかっこよく――ライトスタンドに運ぶってのも、面白そうだなー」
 ばしん、とロージンがマウンド横にたたきつけられる。
「じゃ、狙い打ちしてみっかー」
 と、俺は右足を背に引いた、クローズドスタンスで構える。それも、流し打ちをするためだけの、それ以外の用途はないような――極端なフォームで。
「来いよ、エース様。遊ぼうぜぇ!」
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