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講談社やら集英社やらのライトノベル作家みみとミミの物書きブログ
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 バッターボックスに降りてきたひなたに俺は声をかける。
「いや、いい度胸してるよ、お前。女にしとくのがもったいないくらいだ」
「……それって褒め言葉のつもりなわけ?」
 ひなたは憮然とした顔をする。
「褒めてるとも。まさかまさかの三連続。最後の一球はカーブもかかっていたとはいえ、あのスピードを三球続けて投げ込むなんてすさまじい精神力だろう。まったく完敗。いやはや、かないませんわ、お嬢様。ひなた様」
 なんか、言えば言うほど表情が険しくなっていくような気がするが。
「というわけで、俺はこの辺で失礼――」
「負けたらなんでもいうこと聞いてくれるんでしょう?」
 うっ、バレた……。
「はぁ……」
 ため息が漏れる。
「……で、俺は何を買ってくりゃいい?」
「ねえ、ひとつ聞いていい?」
 無視ですか。
「ああもう、なんでもいいよ。いくつでも答えるからどんどん聞け」
「そう、じゃあ聞くけれど――このチーム、男子に勝てると思う?」
 ん?
「男子っつったって、ピンキリだろ。甲子園優勝校なんかなら瞬殺されるだろうし、小学生相手ならコールドとれなきゃおかしい」
「なら、ウチのだったら?」
「は?」
「あたしたちが野球の試合をしてウチの男子部員に勝てるか、って聞いてるのよ。莫迦」
 ウチの男子部員。つまり、天武高校の男子硬式野球部員。予選上位クラスの野球部員を相手に、勝てるかと聞いている。
「ふむ……」
 アゴに手をあて、一考。
 投手力はともかくとして、守備がああもお粗末で、打撃は未知数。
 守備レベルと同等と考えるなら、打撃も捨てにかからないといけないだろう。
 となると――
「無理だな。お前がどれだけ力投しても、十回やって十回負ける」
「だ、だったら、一ヶ月の練習時間があったなら!? ちゃんとした指導も受けられるものとして!」
 一ヶ月使えれば、まともな指導者は守備を直す。
 動き自体は悪くなかったのだから、基礎だけなら一ヶ月あればたたきこめるはずだ。
 その上で、打撃力を強化して、適切に弱点を突いて戦ったとして――
「だとしても、十回やって十回負けるだろうな」
「くっ……!」
 ひなたが悔しそうに唇をかんだので、
「ただし――」
 もう一言。
「――俺が試合を指揮したなら、わからんぞ」
「……え?」
 エースナンバーの付け方を間違ってる監督じゃあ無理でも、俺なら――お前を、ひなたをうまく使ってやれる!
 ひなたには、ぞくぞくするくらいのすさまじい球速差って武器がある。
 たとえどんな欠点があったとしても、それだけで十分にいける。
「男子の監督も采配へったくそだからな。ちゃんと頭使って勝てなきゃ嘘だ」
 あっはっは、と高く笑う。
「……あんたへの、お願い決まったから聞いてよ」
 びしっと俺の鼻先に人差し指を突きつけて、ひなたはほえる。

「監督になって、指導して、一ヵ月後にあたしたちを勝たせなさい!」

 とても、冗談を言っているような顔ではなく。目尻に涙を浮かばせながら、だった。
 興奮でなのか上気した顔。小刻みに震える指先。凛とした表情にまったく似合わぬそれらが、決意をにおわせる。
「……ダメだ」
 だが、それでも、
「俺は甲子園へ行く。だから――そんな暇はない」
 俺は、応えない。

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