[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
一球目、二球目ともにスローボール。
コントロールこそ平凡だが、ひかげと寸分たがわぬフォームから繰り出されるあまりの速度差。その速度差こそがひなたの最大にして、他のピッチャーが持てぬほどの強力な武器なのだろう。
球速80キロ。これはプレートからホームベースまでの18.44メートルを約0.83秒で通過する速さだ。これが球速140キロだと0.48秒。実に0.35秒もの差がある。
野球を数字で考えたことがなければ、この0.35秒という時間を大きいものと捉えることは難しいが、これはすさまじい大きさだ。
俺のバットのヘッドスピードは、こちらもおよそ時速140キロ程度。そして、バットの長さは最大でも1.067メートルと定められている。
仮に、支点から0.8メートルの位置にボールが飛び込んできたとすると許される角度はおよそ前後50度ずつ。これを解くと、バットがボールを捉えることができる時間はわずかに0.0479秒だけ。
0.35秒のズレがいかに大きいかわかるというもの。
だから、三球目は速球を待ちながらも、長打は捨てる。
ただただミートに徹して、速球をセンター前にはじき返すことだけにしぼる。遅い球であったならば――
「――ちっ!」
放られたのは、さらに遅い七十キロほどの球。ベースを通過するまでにかかる時間はなんと0.95秒。だが、それでも――
――カットしてみせる。
読みの外れた球を『なかったこと』にする技術。それがカット。ファールに逃げる能力だ。
一流と呼ばれる打者はいくつもパターンがある。しかし、いずれも高いバットコントロール技術を持ち、得意な球で勝負することができる。
「俺は、お前の――」
――速い球を打ちてぇんだよ!
ボールは、緩やかに軌道を変え、スイングの下をくぐって、ミットに収まった。
よくコントロールされた、スローカーブだった。
>