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講談社やら集英社やらのライトノベル作家みみとミミの物書きブログ
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 序章

「お前たちに、まず言っておくべきことがある」
 都内にもかかわらず広いグラウンドは、その隅まで丁寧に整備されていた。
 見渡せばトスバッティング用のネットからバッティングマシーン、果ては巨大な照明まで様々な専用機材が目に入る。
 さらに遠くまで目をやれば、校舎に併設された選手寮さえ見えた。
 ここはまさしく、甲子園に行くために存在する学校だ。
「相手との戦力差は途方もなく開いている。仮に、今お前たちが挑んだとすれば、十回やって十回負ける。ただ一度の偶然もないと断言してやろう」
 その選手たちは沈痛な面持ちで俺の言葉を呑んだ。
「そこに俺が加わった。準備期間として一ヶ月が与えられた。ならば、どうか?」
 続く言葉を聞き逃すまいと、自然、選手たちの体が傾いだ。
 俺の前に並ぶ十人のうち九人までは、だが。
「結論から言おう。十回やって――九回負ける。これは覆らない。俺にできる限りのすべてを尽くしたとして、それでも勝てるのは一回だけだ」
 ぐらり、と揺れた。
 発奮はなく、ただただ堕ちる――
 かすかな希望も、この瞬間打ち砕かれた。もう、手はない。やっぱりダメだった。
 ――そんな目をした。
 俺の前に並ぶ十人のうち九人までは、だが。
「――で、『その一回』を試合当日に持ってくる方法はあるんでしょうね?」
 口が、歪む。
 触らなくてもわかる。今、俺は笑っている。
 ああ、お前ならそう言ってくれると信じていたよ。
 そこにあるのは、強気な目だった。
 闘争心を失っていない、挑戦者の目。
 相手に打ち勝つ意志を宿した、力ある目。
「最高の展開をしたとして、それでも五点は取られるぞ」
「なら、六点取る方法はあるんでしょうね?」
 間髪入れず、そう返された。
 直立ではなくやや足を開き、両の手は腰に当てて立つ。
 弱い風が舞い上げられた砂は白のユニフォームを色付けし、長い黒髪をするりとなでた。
 百六十センチもないだろう俺より頭ひとつは確実に低い背丈なのに、ともすれば見下ろされているようにも感じられる。
 ああ、ああ、いいね。いいよ、最高だ。
「当然だ。俺を誰だと思っている?」
 お前がそうだからこそ、俺はやる気になった。
「知らないわよ、莫迦」
 俺の不敵な笑いとは対照的な、活発で楽しそうな笑い。
 芸術品のように整えられた顔立ちに、勝気に吊り上げられた眉が印象的な少女。
 それが彼女――相模ひなた。
「お、お姉ちゃん、監督さんに莫迦莫迦言っちゃダメだよぉ」
 と、そのひなたとも対照的な気弱な声がひなたと同じ顔――から無遠慮なまでの力強さを抜いたもうひとりから発せられる。
 双子のはずなのに、同じ外見なのに、相模ひかげはさっぱりひなたに似ていない。
「ひかげ、よく聞きなさい? 莫迦に莫迦って言わないと、莫迦が莫迦だって自覚すらできない莫迦になっちゃうのよ。いいの、それでも?」
「え? え? えっ? ええと……莫迦が莫迦に莫迦だから莫迦で……」
 あっさり混乱させられ莫迦の意味を模索するひかげ。
「ふぅ、いい仕事したわ♪」
 あっさり煙に巻いてさわやかな笑顔を見せるひなた。
「何の仕事をしとるんだ、お前は……」

 だが、限りなく頼りないこのふたりこそが、試合の鍵となる――

「莫迦って何ぃ~? ふにゃあ~……」
「……我が妹ながらいいのかしら、これで?」
「お前が言うな」

 ――と思いたい。

 天武高校女子硬式野球部対男子硬式野球部の試合日まで、あと三十日。
 

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