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講談社やら集英社やらのライトノベル作家みみとミミの物書きブログ
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483 ミミ to I eva 聴音器官 ◆8VM5xLK5jw 2008/07/04(金) 00:51:01.05 ID:sXwqf6Nz0

愛は疲れたのか寝てしまった。
まだ家まで何駅もあることを確認して、自分の羽織っていたものをそっとかけてやる。

「おねえちゃ……」

寝言でそうもらしてそでにしがみついてくる愛に、ちょっと笑ってしまう。

「俺はおにいちゃんだってば」

窓から見える景色はすでに紅く染まっていた。
少し長居をしすぎたようだ。

 

484 ミミ to I eva 聴音器官 ◆8VM5xLK5jw 2008/07/04(金) 00:51:35.88 ID:sXwqf6Nz0

カタコトと車体の揺れるままぼうっと遠くを見ていると、なんだか昔を思い出す。
父がいて、母がいて、俺がいて、妹がいる、そんな平凡な世界。

「懐かしいな……」

父は厳格だけれども子煩悩で、俺たちを甘やかしては母に怒られていた。
かといって、母が厳しかったかというと。いやいや、デレデレに甘い母親だった。
休日はというとどこかへ連れて行ってもらい、誕生日やクリスマスには両手に抱えきらないほどたくさんのプレゼントをもらった。
それが共働きであまり子供たちに時間をとることができない彼らのせめてもの気持ちだということは、ずいぶん経ってから気が付いた。
だって、そうと気が付かないくらいに俺たちは幸せだったから。

「懐かしい。うん、懐かしい……」
485 ミミ to I eva 聴音器官 ◆8VM5xLK5jw 2008/07/04(金) 00:52:38.13 ID:sXwqf6Nz0

三度はんすうして、思う。
ひょろりとした背格好に気のよさそうな優しい目をした父。
実年齢よりも十は若く見えた、背の低い胸がぺったんこな母。
今はふたりだけれど、そのうちきっと五人で暮らせる。
――だって、かれらはびょういんにいる。
そう。大丈夫だ。五人で暮らせ――

……『五』人?
父、母、俺、愛。
あれ? 四人だ。
父、母、俺、愛。
あれれ? 四人だ。
父、母、俺、愛。
おかしいな? 四人だ。
父、母、俺、愛。

――ああ、またかずをまちがえた。ごにんだ。あってるじゃないか。

「どうも数学は苦手だ……」

いつからだろう、こんなに数学が苦手になったのは。
おかげで愛にずいぶんと苦労をさせている。

「ほんっと、俺ってだらしないよなぁ……妹ひとり支えきれないなんて」

肩に寄りかかる愛を見て、はぁ、とため息をついた。
486 ミミ to I eva 聴音器官 ◆8VM5xLK5jw 2008/07/04(金) 00:52:57.95 ID:sXwqf6Nz0

「愛、愛。ほら、起きろって」
「んにゅ……?」
「乗り換え。降りないと帰れないぞ」

気持ちよさそうに寝ていたのを起こすのは少し可愛そうだったけど、仕方がない。
揺り起こすと愛は緩慢に返事をした。

「ふぁい……」

まったく、と思ったが、普段をかんがみればひとのことはいえない。
ふたりしてぱたぱたと持ち物を整理し始めた。
487 ミミ to I eva 聴音器官 ◆8VM5xLK5jw 2008/07/04(金) 00:54:07.07 ID:sXwqf6Nz0

電車を乗り換えても愛は眠い様子で、何度も何度もあくびを繰り返している。

「ふあぁ……ごめん、おねえちゃ――おにぃ……」
「まあ気にするな。まだしばらくあるから寝ててもいいんだぞ?」
「うん……ふあ……ありがとう、おね――おにぃ……」
「ほら、これを肩にかけて」
「うん……おねえちゃん……」

おいおい、いくらなんでも間違えすぎだろう。
いくら俺が今日一日『おねえちゃん』をやったとはいえ、そりゃあないんじゃないか?
確かに、今着てる服だってワンピースで――そう、胸を押し込まないような感じの服だ。
持っているバッグも、量こそ入れど可愛らしさを失っていない女性向けのものだし。
靴だってこんな可愛らしい小さな小さな小さな小さな小さなちいさなちいさなちいさなちいさなちいさなちいさな
ちいさなちいさなちいさなちいさなちいさなちいさなちいさなちいさなちいさなちいさなちいさなちいさなちいさな
ちいさなちいさなちいさなちいさなちいさなちいさなちいさなちいさなちいさなちいさなちいさなちいさなちいさな――












――よくこのおおきさのじょせいようのくつをあいはみつけてきたもんだ。

呆れたところに情熱を注ぐ妹だ。 
488 ミミ to I eva 聴音器官 ◆8VM5xLK5jw 2008/07/04(金) 00:54:32.26 ID:sXwqf6Nz0

「愛、起きてくれ」
「んむぅ……」
「ほら、愛。眠いのはわかるけれどついたんだ」

どうにかこうにか覚醒させて、ホームへと降りる。
すでに空は暗く、見上げれば雲のない天上に満月が顔を覗かせていた。

「愛、見てみろよ」
「……」
「ほら、月がすごくきれいだ。愛、見えるか?」
「……うん」

眠いのか、まだ愛の答えはいつもようではない。

「愛、大丈夫か? 気分が悪いならおにーちゃんがおんぶしてやるぞ♪」

冗談めかしてそう言った。

「……」

愛の表情がとたんに苦いものになった。

「愛?」
「……めてよ」

何かを小声でつぶやいた気がした。

「愛、本当に気分が悪いならおにーちゃんに任せろ。愛ひとりくらいおにーちゃんが背負って歩けるから」

そうまでせずとも、歩きながらしばらく話せば元気にな――

「やめてよっ!」

494 ミミ to I eva 聴音器官 ◆8VM5xLK5jw 2008/07/04(金) 01:00:02.78 ID:sXwqf6Nz0

「……えっ?」

愛が叫んだ。いや、怒った。
なぜ?
どうして?

「私は、愛じゃない! 私は、私は――っ!」

愛が愛じゃない?
愛は愛じゃない?

「おねえちゃんは、おねえちゃんは――っ!」

何が。
何で。

「……ごめん。なんでもない。帰ろう、おにぃ」

何を間違った?

505 ミミ to I eva 聴音器官 ◆8VM5xLK5jw 2008/07/04(金) 01:08:24.34 ID:sXwqf6Nz0

「……ねぇ」
「な、なんだ?」

ああ、いかんいかん。どもってしまった。
こういうときは、年長者として落ち着いた態度で接してやらな――

――ねんちょうしゃではないけれど、あにとしておちついたたいどでせっしてやらないと。

「私は、誰?」

愛、が、変なこと、を。

「ううん、いいの。答えないでいい。無理だから。今のおねえちゃんには答えられないから」

何を、いって、る。

「ああ、私、何言ってるんだろう。ごめんね、混乱させて」

愛は、愛は、愛は、愛は、愛は。
509 ミミ to I eva 聴音器官 ◆8VM5xLK5jw 2008/07/04(金) 01:12:42.76 ID:sXwqf6Nz0

「ほら、寝よう? おねえちゃん、疲れてるんだよ。だから、寝れば治るよ」
「ねれば、なおる……?」

ねよう。

「だから、お家に帰ろう? 大丈夫、おねえちゃんは私が守るから」
「かえる……」

かえろう。

「手につかまって。私の後ろを歩いていれば家につくから」
「つかまる、つく……」

つかまった。

「何も考えないでいいの。私は男でも女でもいいの。おねえちゃんが。おねえちゃんだけでも生きていてくれればそれでいいの。いいはずなの」

だきしめられた。
511 ミミ to I eva 聴音器官 ◆8VM5xLK5jw 2008/07/04(金) 01:15:50.03 ID:sXwqf6Nz0










おにいちゃん、すき。 












『妹に胸がない6』へ続く
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